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日本経済新聞にインタビュー記事が掲載されました

日本経済新聞 夕刊 2020年2月7日(金) より抜粋 

■ 電子政府、使い手目線カギ 行政手続き なお紙多く

国の競争力を握るのは何か。労働力や資本、技術、軍備などとあわせて注目を集めるのがデジタル化だ。民間の巨大IT(情報技術)企業が国境を越えてしのぎを削る一方で、米国が中国企業の排除を図るなど国家間競争の様相も呈している。日本は2019年12月に行政手続きを原則電子化すると定めたデジタルファースト法を施行した。各国との競争で日本政府はどのような位置にいるのだろうか。

■ 国連調査では10位

各国政府のデジタル化の調査では、国連が加盟国を対象に隔年で実施している「電子政府ランキング」がある。18年は193カ国・地域が対象で1位はデンマーク、2位はオーストラリア、3位は韓国だった。日本は12年の18位から14年に6位に躍進し、16年は11位、18年は10位だ。

国連調査の順位は「オンラインサービス」「通信インフラ」「人的資源」の3分野の指標を算出し、その平均値を比較している。報告書は日本について「人的資源指数は他の上位国より低いが、インフラとオンラインサービスは高い」と指摘した。

より多くの指標で分析する調査もある。早稲田大の電子政府・自治体研究所が世界11大学と提携して実施している「世界電子政府進捗度ランキング」だ。こちらは電子化に前向きな65カ国・地域のランキングで、通信網の整備やオンラインサービスの使いやすさなど10分野の総合点で算出する。18年度は1位がデンマーク、シンガポールと英国が続き、日本は7位だった。

世界電子政府進捗度ランキング トップ10

■ CIO配置に高評価

指標が多い早稲田大の調査を分析すると、日本の強みと弱みが浮き彫りになる。

強みは政府の体制に関わる分野だ。10分野のうち「政府CIO(最高情報責任者)」は1位だ。組織の枠を超えた責任者がいるかをみる項目だが、日本は政府全体にも各府省にもCIOがいる。「電子政府推進」も4位と高評価だ。政府の計画づくりや取り組みを測る項目で、デジタル・ガバメント実行計画やIT戦略などが評価されている。

このほか「行政管理の最適化」「オープン政府」「ネットワークインフラ」などが10位内に入った。組織やインフラに近い分野が強みなのは国連調査の傾向とも近い。ただ、サイバーセキュリティーは14位と低かった。

日本政府の特徴に挙げられるのはサービスの分野が弱い点だ。「利用者にとってどうか」という視点では順位が下がる。手続きの電子化に関する「オンラインサービス」は12位、市民がインターネットを通じて行政の情報を得る「電子参加」は11位だった。

早稲田大の電子政府・自治体研究所顧問の小尾敏夫氏は「世界の潮流は市民優先。ユーザー側の満足度を高める点に主眼を置いており、日本は遅れている」と指摘する。

■ 上位国はサービス重視

総合ランキングの上位国をみると、いずれも利用者目線のサービスに定評がある。

1位のデンマークでは市民ポータルサイトで引っ越しや育児、年金などの手続きを一元的に済ませることができる。医療分野でもカルテや処方箋を電子化し、匿名化された個人の健康データを民間サービスにも使う。その結果、世界の製薬企業や医療機器メーカーが集まる欧州最大級の医療産業集積地「メディコンバレー」ができている。

4位のエストニアは電子政府、電子立国で常に名前が挙がる。00年代以降、住民登録や納税などあらゆる行政手続きを電子化しており、24時間、ネットで様々なサービスを受けられる。国民ID番号を導入しており、番号を記したカードは1枚で運転免許証や健康保険証も兼ねる。税の確定申告は数分で終わり、納税申告の95%はオンライン手続きだ。19年の議会選挙はネット投票が4割を超えた。

こうした国々と比べると、日本は利用者目線だとは言い難い。日本の行政手続きは約5万8000種あるが、電子化率は17年度で1割だ。転出入届や運転免許証の住所変更、旅券の申請など、身近な手続きの多くは役所の窓口に出向いて文書でやりとりする。

件数ベースでみた場合は約21億件で、そのうち7割が電子化されているが、電子申請をしても紙の添付書類を求められてデジタルだけで完結しない場合が多い。

日本の部門別スコアと順位

■ 世界最先端の夢

森喜朗内閣が「世界最先端の電子政府をつくる」と掲げてから約20年がたったが、これまで日本が最先端にたったことはない。上を目指すなら弱点を補強する必要がある。

昨年12月に施行したデジタルファースト法は(1)手続きをITで完結させる「デジタルファースト」(2)一度提出した情報の再提出を不要とする「ワンスオンリー」(3)手続きを一度に済ます「ワンストップ」――の3原則を掲げた。いずれも利用者へのサービスを重視している。政府も日本の弱みを意識し始めている。あとはその具体化だ。

政府CIO上席補佐官の座間敏如氏は「先進的といわれる国は企画から実行までが早い。日本は開発に時間をかけるあまり、できあがった時に技術的に時代遅れになったり、社会環境が変化して不要なサービスになったりする場合が多い」と話す。戦略や体制、インフラづくりから一歩抜け出せるかが問われる。

■ サービスのデザイン力を

総務省の調査によると国内のインターネット利用率は13~59歳では9割を超える。スマートフォンで買い物をしたり、飲食店の予約をしたりするのは多くの人にとって当たり前のことだ。にもかかわらず、いまだに引っ越しや公的証明書の更新期限を迎えるたびに役所に出向いて書類を提出しなければならない。そのたびに行政と民間のサービスのギャップに驚く。

エストニアでは電子化による費用削減効果が国内総生産(GDP)の2%に相当するという。一般社団法人行政情報システム研究所の狩野英司・調査普及部長は「何が困っているかを突き止めてサービスをつくりあげるデザイン力が重要になる」と話す。単に既存の手続きを電子化する発想でなく、デジタル技術で世の中全体をどう変えるかの視点が欠かせない。

(以上 2020年2月7日(金)日本経済新聞 夕刊 より抜粋)